「落語」

 先日4月30日に落語家の桂歌丸師匠(79)が、50年間出演を続けて現在は司会を務めている「笑点」を引退すると発表されました。5月22日の生放送が最後の出演になるとのことです。引退の理由は「体力の限界」と発表されており、さすがの歌丸ももうそんな年齢になったのだなと、ふと感慨深い気持ちになりました。しかし、よく考えてみると、歌丸師匠は私がまだ幼かった約30年前から既に「老人」「骸骨」「死体」などの高齢者ブラックジョークを中心に笑いを取っており、そう考えるとまだ80にもなっていなかったことに正直驚きました。

 彼の本業はもちろんご存知のとおり「落語家」です。人間国宝を多数輩出する日本の誇る伝統芸能と考えると落語というものは敷居が高そうに感じられますが、内容も身近なテーマが多く実に気軽に楽しめる演芸です。「まんじゅう怖い」「目黒のさんま」「寿限無」あたり一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 さて、この落語の世界というものは古くから徒弟制を採用しています。弟子として師匠について、師匠の身の回りの世話をして、師匠から落語を教えてもらう。そして驚くことに、落語の世界に教科書はないそうです。もちろん本屋に行けば落語のネタが書いてある本は売っていますし、寄席自体がCDやDVDにはなっていますが、教わるときは目の前で師匠のネタを見るだけだそうです。そのように口伝によってのみ伝えられるということで、やはりデメリットも生まれてきます。有名なネタであっても作者がわからないものもありますし、関東と関西で違ったネタになってしまったものさえもあり、きちんとした形での伝承が非常に難しいものとなってしまいました。

それでも口伝と言った不確かな伝承方法を今なお採用し続けているのは、口伝によって起こる変化も落語の進化だととらえられているからではないでしょうか。

語るときの間の取り方が違う、小道具が違う、落ちが違う、口伝を経るたびにすこしづつ変化していき、最初とは全く違う話になって いたとしても、それが落語だととらえられている、実に懐の深い伝統芸能ではないでしょうか。

 そして、この変わることを恐れることなく歓迎していく姿勢は、我々が仕事をしていくうえでも参考にしなくてはいけない部分ではないでしょうか。目まぐるしく変わっていく昨今の環境の中で「〜にきまってるから。」「いつも〜してるから。」などの固定観念は捨てて、自分のやり方を新しく考えて貫く場面も必要になってくるのではないでしょうか。

アオイ福原(株)
広島本店 石田 知也

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