「コラム」

 先日お客様から電話がかかってきたのですが、「ゆでたまご」の話から始まり、ずいぶんと気付かされたことになったので、そのことを紹介させていただきたいと思います。 「ゆでたまごみたいな質感の紙ってありませんか?」とある日のお昼過ぎに、お客様から電話がありました。

「ゆでたまごの質感って、白身の固まった部分のことでいいですか?」

半分に割って、黄身が見えているのもゆでたまごですし、なんなら黄身と白身をみじん切りにしたものもゆでたまごの姿には違いないので、私は念のため確認しました。 「白身の質感でOKです。」

回答をいただいて、殻をむいた状態のゆでたまごでイメージを固めたのですが・・・・ゆでたまごってどんなだったっけ?改めて考えてみました。というのも、このお客様からは、「こんな感じの紙ってありますか?」というお問い合わせを度々いただいているのですが、最近イメージ通りの提案が全くできていなかったのです。言われた内容を私の中のイメージから一生懸命選んでいくのですが、「こういうのじゃないんですよね・・・・」何度もこういったお言葉をいただいて、悔しくて申し訳なくて、本当に自分の力のなさを感じていました。

 そこで、ゆでたまごについて一生懸命考えていると、ゆでたまごにもいろんな姿があることに辿り着きました。まず、ゆでたまごで私が真っ先に思い浮かべたのはプルンとした触感でした。要するに触ったかんじです。次に視覚から、ゆでたてを剥いて、まだみずみずしい輝きのあるツルンとしたもの。そして、殻を剥いてからしばらくたって、表面の輝きがなくなったしっとりしたもの。この3つに焦点を合わせて紙を選んで行きました。

 その後、この3種類の紙を持って行って、先に挙げた3つの特徴を挙げながら、一生懸命ゆでたまごについて語りました。今までの失敗をもう繰り返さないために、出来る限りその紙を選んだ理由を語りました。そして、その説明を聞いた後のお客様から

「こういうことが私たちの仕事なんですよ。やっとわかってもらえたみたいですね。」

とのお言葉をいただきました。とてもうれしかったです。そしてそれと同時に、今まで自分がお客様のイメージや要望ではなく、自分のイメージや願望に沿った商品の提案をしていたことに気が付いて、消えてなくなりたいほど恥ずかしくなりました。

 お客様の先には、その先のお客様がいて、その人のイメージはどんななのか?そして、要求されたイメージの物にも見方は一面からだけではないこと、そして、その人に伝わるだけの説得力のあるストーリー。こういったことを、私は今まで全然考えられていなかったのです。私は今のお仕事を10年以上させていただいていますが、そのうちにどこかだれて、考えなければいけないことを考えていませんでした。反省とともにこれからの仕事を改善して、活かしていきたいと思います。

 また、なによりゆでたまごについて一生懸命考えて、そのイメージに合った紙を選んで、お客様に説明するストーリーを考えていた時、私はとても楽しかったのです。正直仕事で楽しいと感じることがかなり少なくなっていたので、このことも新しい発見でした。  視点を変えて、視座を変えて、いろんなことに気が付いて、ほんとうにゆでたまごの殻がキレイに剥けたような気分でした。

アオイ福原(株)
広島本店 石田 知也

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